阪神・淡路大震災で失われたモノ、残されたモノ、生まれたモノ…そんな記憶を記録します。

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◉震災発レポート

防災大臣と新潟県知事が語る❶
二度の地震の経験から

東京都千代田区・九段会館大ホール ◉ 2010年5月15日
 —いま、地域を考える— 記念講演『地域と防災』

text by kin

2011.1  up
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泉田裕彦新潟県知事の講演。東京都千代田区・九段会館 2010年5月15日)
泉田裕彦新潟県知事の講演。(於東京都千代田区・九段会館)
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初夏を思わせる陽光の中、都内の九段会館において防災シンポジウムが開催された。労働組合の共済やシンクタンク事業を担う(財)全労済協会(財団法人全国勤労者福祉・共済振興協会)の主催の記念講演会である。形式だけのシンポジウムが多い昨今にあって、これは中身もなかなか充実しており、講演者の人選も泉田新潟県知事や中井防災担当大臣、連合の古賀会長といった重要人物ばかりが挙っている。これだけのメンバーの話を揃って聴ける機会もなかなかない。会場はほぼ満員で、400名を超す参加者があった。皆が地域防災の関係者なのだろうか。ざっと見渡すとスーツ姿の人も多く、4、50代といった組合に参加しているような人たちが中心層のようだった。

二度の地震の経験「中越大震災」と「中越沖地震」

基調講演は泉田裕彦新潟県知事である。2004年10月、初当選の泉田知事就任直前に中越地震が起こり、就任時から震災対応に追われることとなった。この地震では中山間地が大きな被害に見舞われる。また2007年には日本海を震源とした中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原発の被災が世界中から注目された。こうした性格の異なる大きな震災に相次いで見舞われた新潟県の被災体験談が話の中心となった。

ふと、泉田知事が話の流れの中で、特に2つの地震を逐一「中越大震災」と「中越沖地震」とはっきりと強いアクセントで区切り、進めていたことに気がついた。ややもすると、あれだけの災害であったのに他県民から見ると「中越地震」と「中越沖地震」が混ざったり、被災した事実さえ忘れてしまう場合もある。そう思われることを自覚するが故の、県としての意地の主張なのだろう。

「新潟県中越大震災」とは、2004年新潟県中越地震のことを新潟県が独自に呼称している正式名称である。「『阪神・淡路大震災』にも匹敵する」として、県の行政資料でも使用する。一方、2007年新潟県中越沖地震のほうは、発話時に「沖」に強くアクセントを置いて発音をしていた。この気象庁の命名法によって一字しか違わない名になり、たいへん紛らわしくなった。

確かに同じ地域名が入り、被災地域も重なってはいるのだが、その"最大被災地域"や特徴は大きく異なる。実際のところ、2つは比べてみるといろいろと対照的である。まず場所と季節と時間が違う。これらは関東大震災や阪神・淡路大震災ともまた異なる特徴だった。こうした特徴の違いによって経験や教訓も異なり、災害対応は大きく異なったという。

◎発生した場所、季節、時間の特徴
【中越大震災】  中山間地、冬(晩秋)、夜(夕方)
【中越沖地震】  沿岸地域、夏、朝
【関東大震災】  都市、夏、昼
【阪神大震災】  都市、冬、早朝

夏の災害対応で最初にやるべきことは、まず「トイレ」問題だという。地震で水道や電気が止まる。すると飲料水は備蓄や救援物資で確保できたとしても、現代の水洗トイレは全く使えなくなってしまう。とくにこれは首都直下地震などを考えた場合は、重要な問題だと指摘する。

そしてとにかく避難所には、アメニティを充実させること。充実し過ぎて困ることはないという。夏場の体育館には空調も無いため、空気も淀んで40度近くにまで上がることがあったという。このエアコン問題も大きな課題の一つだった。例えば体育館に備えるような大きなエアコンがすぐに欲しいといっても、メーカーのほうにも在庫はなかった。メーカーは普段、注文の後に生産を始めるのだ。こうした例はエアコンに限った話ではなく、仮設住宅から細かい備品にいたるまでほぼすべてに共通する話だという。エアコンの事例では、県が各方面に打診した結果、成田空港会社から飛行機が駐機中に使う航空機室内用の大型クーラーを、そして米軍からは大型エアコンを調達することができたという。

災害時は、不平等でも批判を恐れずに

こうした緊急対応時の教訓として、「批判を恐れずにやる」ということを強く指摘した。苦労して確保したエアコンの場合も、すべての避難所にすぐに対応できるわけではない。そこを平等に対応するという行政の姿勢で「全部揃ってから一斉に対応する」というのではなく、「準備が整った所から対応し始める」という姿勢を意識することが必要だという。平常時は住民サービスは平等が鉄則だが、「災害時には平等は難しい」のだ。行政は「批判を恐れずにやる」ことが必要であり、住民の間でも、こうしたことを受容していくコンセンサスが求められるのだ。

批判を恐れて平等にやる、という姿勢は過去の災害事例でも多く見られた。神戸の時にも、避難所に届いた救援物資が避難者の数に足りないことが多々あり、不公平感を招くとして配らず、逆に隠しておいたりしていた。それが食品の場合などだと、その多くは後に破棄される結果となった。また多くの個人から送付された救援物資も、気持ちはこもってはいても小ロットのものばかりでまとまった数が揃わず、配ることはなかなかできなかった。結局は些細なトラブルを恐れていたのだろう。

泉田知事は、それを足りないと批判するのではなく、例えば強者が弱者に譲ったりするような姿勢でいることが被災者にも求められるという。公助に期待する市民が多いと思われる現在だが、これから我々はこうしたことへの共通理解を形成していくことができるだろうか。

自主防災組織の必要性

災害時には行政も対応できない。中越大震災の時、救助された人の95%は消防や警察ではなく近所の住民によるものだった。そこで今後は、地域の自主防災組織の必要性が高まっていくという。例えば新潟県がGISを用いてシミュレートしたところ、自主防災組織が組織されている地域が被災した場合は、住民の安否確認に3時間を要したが、組織されていない地域では1日経っても確認が取れないという結果が出たという。当時新潟県の自主防災組織の組織率は全国平均よりもかなり低かったが、現在では県内でも65%となり、ほぼ平均くらいになった。こうした自主防災組織において、減災や災害対応を理解してくことが望まれるが、一方でなかなか理解も進まないということもある。

例えば地域には既に自治会があり、消防団があり、自主防犯組織もある。加えて老人会や婦人会、子供会やまちづくり協議会など現状でも様々な組織があるだろう。そこにまた新たに別の「縦」の組織を加える必要性があるのか、という声も大きいという。いったい何が違うのか、現状の組織が防災も兼ねれば良いのではないか? 細かく言えば組織の目的や役割や身分がそれぞれ違う。その必要性を説いて少しずつ進めているというのが現状だという。

そして自主防災組織を結成できたとしても、さらにそこにも大きな問題が立ちはだかっている。2005年より全面施行となった「個人情報の保護に関する法律」の問題だ。自主防災組織が要援護者(災害弱者)の名簿を共有することによって、緊急時の救助活動を敏速に行うことにつながる。しかしこうした要援護者名簿を自主防災組織に渡すことを自治体が躊躇する事例が、各地で相次いでいるという。確かに法に明文化はされていないが、現状のままでも解釈で大丈夫だという。これは法運用の過剰反応であり、総務省もこうした生命、財産の保護に必要な場合は、本人の同意を得ずとも個人情報を共有できるとの通達を出している。また住民の側にも、こうしたところに受容のコンセンサスが今後は求められていく。

県を背負った知事「防災は人ごとではない」

泉田知事の話は、全体的にわかりやすくとても面白いものだった。面白いといっても、もちろんそれはユーモア的なものではない。政治家だから話が上手なのは当然だが、だたそれだけではないように映った。テレビで断片的に見ていたときの泉田知事の「若いが落ち着いて冷静なリーダー」とはまた少し違う、冷静だが情熱を秘めているという印象を今回新たに抱いた。話に淀みがなく、とにかく伝えたいことがたくさんあるからどんどん話したい、という姿勢なので、聞く方もどんどん前のめりになっていく。

次々と災害対応の問題点や解決方法の提案を具体例を出しながら挙げて紡いでいき、聴衆を引きつけていくその内容や熱意といったところの人間力が、とても面白い。元通産官僚なので国のこともわかるという、中央と地方の両方の視点からモノを見ることができる。そして大災害の被災県と非被災地域という立場からも客観的な視点を置くこともできる。いろいろな視点に立脚しながらも、首都圏とは離れている信越地方の新潟県という地方を意識しアピールしつつ、けして防災は人ごとではないと進める備えの話には説得力があった。

引き続き「どうすすめるか、これからの地域防災」をテーマに、国と行政と労組のトップが顔を合わせた貴重な鼎談が行われた。鼎談の3名は引き続き参加の泉田知事、そして中井洽防災担当大臣/国家公安委員会委員長/拉致問題担当大臣と古賀伸明連合会長という豪華なメンバーであった。

[続く]

#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。

◉データ
全労済協会統合5周年記念 希望のもてる社会づくり
   —いま、地域を考える— 記念講演『地域と防災』
開催日:2010年5月15日
場所:東京都千代田区 九段会館ホール
主催:全労済協会(財団法人全国勤労者福祉・共済振興協会)
▶講演「大規模災害にどうやって備えるか?二度の地震の経験から?」
   ◎泉田裕彦
▶鼎談「どうすすめるか、これからの地域防災」
   ◎中井洽/泉田裕彦/古賀伸明/〈司会〉中川和之

◉参加講師
中井洽氏(国家公安委員会委員長、内閣府特命担当大臣・防災担当、
              拉致問題担当大臣、中央防災会議委員)
泉田裕彦氏(新潟県知事、中央防災会議委員)
古賀伸明氏(日本労働組合総連合会〈連合〉会長)
中川和之氏(時事通信社「防災リスクマネジメントWEB」編集長)

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九段下の九段会館大ホールが会場 2010年5月15日
九段下の九段会館大ホールが会場
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泉田新潟県知事の講演 2010年5月15日)
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